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大阪高等裁判所 昭和60年(ラ)193号 決定 1985年6月24日

抗告人

大同特殊鋼株式会社

右代表者

秋田正彌

右代理人

西尾幸彦

相手方

破産者石芝サービス株式会社破産管財人

笠井盛男

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所も、抗告人の本件仮処分申請はこれを却下すべきものと判断するが、その理由は以下に付加訂正するほかは原決定理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原決定二枚目裏八行目「(物上代位)」の次に「者の地位を有し、それ」を加え、同行目から九行目の「地位にある」を削る。

2  同三枚目表三行目「)」の次に「し、それと同じ効果を有することになる本件申立の趣旨三、四の仮処分も許されない」を加える。

3  同枚目裏二行目「するものと」の次に「して、現在の先取特権者の地位を仮に定める必要があると」を加える。

4  抗告理由に則して一件記録を検討しても、原決定を取消し、本件仮処分申請を認容すべき事由は見当らない。

三よつて、抗告人の本件仮処分申請を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官首藤武兵 裁判官寺崎次郎 裁判官井筒宏成)

〔抗告の趣旨〕

一、原決定を取消す。

二、抗告人が、相手方に対し、昭和五九年七月二六日、抗告人と、申請外石芝サービス株式会社との間で締結した別紙目録記載の機械に関する売買契約にもとづく売買代金二、〇〇〇万円につき、動産売買による先取特権(物上代位)者たる地位を有することを仮に定める。

三、相手方は、昭和五九年五月二一日申請外石芝サービス株式会社が第三債務者との間で締結した右機械に関する売買契約にもとづく売買代金債権のうち、金二、〇〇〇万円を限度として、これを取り立てまたは右金員について、譲渡、質権の設定その他一切の処分をしてはならない。

四、第三債務者は、相手方に対し、前項の債務を支払つてはならない。

抗告の理由

抗告人は、昭和六〇年四月一日、相手方との間において、動産売買の先取特権(物上代位)者たる地位を保全するため、大阪地方裁判所に対し、地位保全仮処分命令申請をなし、同裁判所昭和六〇年(ヨ)第一、二五六号として受理された(事件名は、債権仮処分等申請事件とされている。)。

同裁判所第一民事部は、昭和六〇年四月一五日「債権者は、債務者の第三債務者に対する本件機械の転売代金債権につき、動産売買の先取特権(物上代位)に基づく担保権実行の申立をなしうる地位にあるものということができる。

動産売買の先取特権は、動産の売買によつて当然に生ずる法定担保物件であり、その優先弁済権を実現するために、債権者は、目的物の競売を求め、目的物の売却等により債務者が受けるべき金銭等があるときは、その金銭等が債務者へ払い渡される前にその請求権を差し押えることによつて優先弁済を主張することができ、それらの手続は民事執行法に定められている。動産売買の先取特権が法定担保権であり、債務者側の設定行為というものが考えられない以上、たまたま債権者側に担保権の存在を証する文書の具備に欠けるという事情があるとしても、そのことからだけでは債権者と債務者間に担保権の存否について争いのある権利関係が存在するものということはできない。

債権者が本件仮処分申請で求めるところのものは、畢竟担保権実行を保全するための仮処分を求める趣旨のものと理解されるが、現行民事訴訟法のもとではそのような仮処分を許す定めがなされているとは解されない。」との判断を示し、本件仮処分申請は理由がないとして、これを却下した。

しかしながら、原決定は、抗告人が、「争ある権利関係」として、主張したところを誤解し、誤つた判断をしているものであつて、違法であるから取消されるべきである。

1 抗告人は、本件仮処分申請において、抗告人が、動産売買の先取特権(物上代位)者たる地位を有するということが「争ある権利関係」にあたると主張しているのに、原決定は、抗告人が、「動産売買の先取特権(物上代位)に基づく担保権実行の申立をなしうる地位にあるものということができる。」と判示している。

抗告人は、本件仮処分申請の本案として、先に、動産売買の先取特権確認請求訴訟を提起しており、同先取特権の実行に関する何らかの請求訴訟を本案訴訟として予定しているものではない。

そして、抗告人の提起した右本案訴訟が確認の利益を有することは、明らかである。

もし、原裁判所が、右本案訴訟につき、確認の利益の有無に疑念を抱いたとすれば、債務者の審尋をすることによつて、容易にその疑念を晴らすことができるのであり、債務者が請求を認諾するとは到底考えられないから、確認の利益があることは明らかとなる筈である。

すなわち、抗告人の提起した本案訴訟について、確認の利益が認められる以上、本件仮処分申請もまた、「争ある権利関係」が存在するものということができるのである。従つて、原決定は、抗告人が「争ある権利関係」として主張したところを誤解していることが明らかであり、失当である。

2 また、原決定は、「動産売買の先取特権が法定担保権であり、債務者側の設定行為というものが考えられない以上、たまたま債権者側に担保権の存在を証する文書の具備に欠けるという事情があるとしても、そのことだけでは債権者と債務者間に担保権の存在について争いのある権利関係が存在するものということはできない。」と判示している。

右判示の趣旨とするところは、必ずしも明らかではないが、動産売買の先取特権は、法定担保権であるから、争いのある権利関係が発生する余地はないという趣旨だとすれば、抗告人としては、到底承服し難い判断である。法定担保権であつても、これを相手方が争えば、そこには、本案訴訟としては、確認の利益が認められ、保全訴訟としても、「争ある権利関係」が認められることになるのは明白である。

あるいは、右判示の趣旨を、債務者側の設定行為が考えられない以上、担保権の存在を証する文書の具備に欠けるという事情があるとしても、それだけでは担保権の存否について争いのある権利関係が存在するものとは認められない、という点に重点があるものとしても、やはり、抗告人としては、納得し難い判断である。

確かに、抗告人は、担保権の存在を証する文書の具備に欠けるために、本件仮処分申請に及んでいるのであるが、抗告人が、本件仮処分申請において「争ある権利関係」として主張しているのは、前記のとおり、「抗告人が動産売買の先取特権者たる地位を有するということ」であり、担保権の存在を証する文書の具備に欠けるといつた点は、本件仮処分申請をするに至つた動機にすぎないのである。

右判示は、抗告人の主張する本件仮処分申請の動機に眼を奪われたため、真の「争ある権利関係」についての判断を誤まつたものといわざるをえない。

四、また、原決定は、本件仮処分申請を、担保権実行を保全するためのものと解し、現行民事訴訟法のもとでは、そのような仮処分申請は許されない旨判示するが、本件仮処分申請は、動産売買の先取特権者たる地位を保全しようとするものであることは、一件記録上明らかであり、このような仮処分申請が、現行民事訴訟法上許されることは至極当然のことである。

仮に、本件仮処分申請は、原決定のとおり、担保権実行を保全するためのものであると解さざるをえないとしても、このような仮処分申請は、現行法上、許されているものと解すべきである。

すなわち、担保権実行を保全するための仮処分は、例えば、抵当権にもとづく処分禁止や執行官保管の仮処分が認められている(NBL三二一号一二頁参照)。とされているところからも、現行法上許されることが明らかというべきである。

五、更に、債権者(売主)が、民事執行法一九〇条にもとづいて、動産売買先取特権による動産競売の申立をする際、執行官に対し、動産を提出するか、あるいは、動産占有者の差押承諾文書を提出することが必要とされているところ、これらの要件を具備できないという事情がある場合に、右先取特権保全のため、目的動産について、執行官保管の仮処分を得て、これを執行したうえ、競売の申立をすることができるとする見解(NBL三二一号一一頁参照)が有力に主張されているが、本件仮処分申請は、まさしく、この見解と軌を一にするものである。

六、よつて、本件仮処分申請は、当然に認容されて然るべきであるのに、これを却下した原決定は失当であり、すみやかに取消されるべきである。

《参考・原決定》

〔主   文〕

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

〔理   由〕

一 債権者は、

1 債権者が、債務者に対し、昭和五九年七月二六日債権者と申請外石芝サービス株式会社との間で締結した別紙目録記載の機械に関する売買契約に基づく売買代金二〇〇〇万円につき、動産売買による先取特権(物上代位)者たる地位を有することを仮に定める。

2 債務者は、同年五月二一日右申請外会社が第三債務者との間で締結した右機械に関する売買契約に基づく売買代金債権のうち、金二〇〇〇万円を限度として、これを取り立てまたは右金員について譲渡、質権の設定その他一切の処分をしてはならない。

3 第三債務者は、債務者に対し、前項の債務を支払つてはならない。

との仮処分決定を求めた。

二 疎明資料によれば、債権者は昭和五九年七月二六日申請外石芝サービス株式会社(以下破産会社という)に対し別紙目録記載の機械二基を代金二〇〇〇万円で売り渡す契約を締結し、同年一〇月二六日第三債務者西条工場で引渡したこと、破産会社は同年五月二一日第三債務者に対し右機械を代金二一〇〇万円で転売する契約を締結したこと、東京地方裁判所は同年一一月八日午前一〇時破産会社に対し破産宣告の決定をし、債務者を破産管財人に選任したこと、債権者は同年同月一九日東京地方裁判所に債務者を相手方として債権差押命令を申し立てたが、同裁判所が担保権の存在を証する文書の具備に欠ける旨内示したため、右申立を取り下げたこと、以上の事実が一応認められる。

三 債権者は、債務者に対し右機械の売買契約に基づく代金二〇〇〇万円につき、動産売買による先取特権(物上代位)者たる地位を有し、第三債務者から債務者に対し転売代金の支払いがなされる前に差押えをする必要があるが、担保権の存在を証する文書を得る手段として、債務者を相手方として動産売買の先取特権者たる地位の確認を求める訴訟を提起したが、その裁判確定までの間、債権者が右地位を有するということが民訴法七六〇条にいう争ある権利関係にあたり、第三債務者により転売代金の弁済がなされてしまえば債権者の先取特権者たる地位を喪失してしまうからあらかじめその地位を保全しておく必要がある旨主張する。

四 前認定の事実によれば、債権者は、債務者の第三債務者に対する本件機械の転売代金債権につき、動産売買の先取特権(物上代位)に基づく担保権実行の申立をなしうるものということができる。

しかし、動産売買の先取特権は、買主が買受けた動産を第三者に転売すること、転買人(第三債務者)が転売代金を買主(債務者)に支払うことを禁止する効力を有するものでないから、その差し止めを求める物権的請求権という構成での係争物に関する仮処分は許されない(この点は債権者も自認するところで、本件仮処分申請は仮の地位を定める仮処分であるとする)。

動産売買の先取特権は、動産の売買によつて当然に生ずる法定担保物権であり、その優先弁済権を実現するために、債権者は、目的物の競売を求め、目的物の売却等により債務者が受けるべき金銭等があるときは、その金銭等が債務者へ払い渡される前にその請求権を差し押えることによつて優先弁済を主張することができ、それらの手続は民事執行法に定められている。動産売買の先取特権が法定担保権であり、債務者側の設定行為というものが考えられない以上、たまたま債権者側に担保権の存在を証する文書の具備に欠けるという事情があるとしても、そのことからだけでは債権者と債務者間に担保権の存否について争いのある権利関係が存在するものということはできない。

債権者が本件仮処分申請で求めるところのものは、畢竟担保権実行を保全するための仮処分を求める趣旨のものと理解されるが、現行民事訴訟法のもとではそのような仮処分を許す定めがなされているとは解されない。

五 よつて、本件仮処分申請は理由がないから却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官志水義文)

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